副業で受注が決まり、初回の打ち合わせに臨む。この段階で多くの人が考えているのは、どう良い成果物を作るかということです。しかし実際に案件が難航するとき、原因は作る力の不足ではないことがほとんどです。
作業が終盤に差しかかってから、前提が違っていたことが分かる。決まったはずの内容が、後から覆る。必要な資料が届かないまま時間だけが過ぎる。こうした手戻りの多くは、着手する前の打ち合わせで聞いていなかったことに起因しています。
この記事では、初回の打ち合わせで確認しておくべき項目と、角を立てずに聞く方法を整理します。読み終えたときに、自分の言葉で確認事項を持てている状態を目指します。
後で揉めるのは、だいたい同じ2つの項目
確認すべき項目を並べれば、成果物の範囲、修正の回数、支払いの時期など、いくつも挙げられます。しかし相談を受けていて実感するのは、実際に揉めるポイントはかなり偏っているということです。
なお当メディアでは、本業と並行して複数の仕事を持つ働き方を「複業」と表記しています(詳しくは副業と複業の違いとは?キャリアアップのためのこれからの選択肢をご覧ください)。
- 決裁者は誰か/ずれると部分修正では済まず、前提から覆る
- 素材を誰が出すか/届かないまま時間が過ぎ、こちらの遅延にされる
偏っているのは、決裁者が誰かという点と、必要な素材を誰が出すのかという点です。この2つは、他の項目と性質が違います。成果物の範囲が少しずれた程度であれば、部分的な修正で吸収できます。しかし決裁者が想定と違っていた場合、修正では済みません。前提から覆るため、作業そのものが巻き戻ります。
だからこの記事では、項目を網羅的に並べることはしません。損害の大きい2つを厚く扱い、残りは要点のみに絞ります。
決裁者が別にいると、修正ではなくやり直しになる
打ち合わせの相手に、実は決定権がなかった。相談の中で繰り返し聞くのがこの形です。
その場では話がまとまり、方向性も合意できたように見えます。ところが完成間近になって、相手の上長から別の指示が出る。方向性そのものが変わるため、それまでの作業が使えなくなります。作業量が増えるという話ではなく、前提が入れ替わるという点が厄介なところです。
複業の案件でこれが起きやすいのには理由があります。外部に発注する担当者が、必ずしも予算や方針の決定権を持っているとは限らないからです。担当者自身も、自分が最終決定できると思っていることがあります。悪意ではなく、社内の承認プロセスが見えていないだけです。
「この内容で進めて大丈夫ですか」と聞く
では、どう確認するか。「決裁者はどなたですか」と直接尋ねる方法は、間違いではありませんが、相手によっては角が立ちます。担当者の権限を疑っているように受け取られかねません。
実務で使いやすいのは、承認の有無を尋ねる形です。「この内容で進めて大丈夫でしょうか」と聞きます。
うまく働くのは、相手の答え方そのものに情報が現れるからです。その場で「大丈夫です」と返ってくれば、相手に決定権があると分かります。一方で「一応、上に確認しておきます」と言われたなら、そこで別の決裁者の存在が見えます。人を尋ねていないのに、同じ情報が手に入ります。
さらに、この質問は相手を追い詰めません。確認の依頼という形をとっているため、担当者にとっても答えやすくなります。
聞いて防ぐより、途中で見せる場を作る
ただし、聞くだけでは限界があります。相手が善意で「大丈夫です」と答えたとしても、社内の力関係までは見通せません。
そこで有効なのが、完成前に見せる機会をあらかじめ予定に組み込んでしまう方法です。「全体の3割ほど進んだ段階で、一度ご覧いただく時間をいただけますか」と提案します。
利点は、決裁者が誰であるかに関係なく効く点にあります。途中で見せる場があれば、その時点で誰かがずれに気づきます。上長が別にいたとしても、完成後ではなく途中で判明します。巻き戻る量が、大きく変わります。
聞いて防ぐのではなく、構造で防ぐ。この違いは、他の項目にも応用できる考え方です。
素材が来ないと、こちらの責任にされる
もう一つ揉めやすいのが、素材や情報の提供です。相手から渡されるはずの資料、データ、写真、社内の確認結果。これらが届かないまま、時間だけが過ぎていきます。
そして納期が近づいたとき、進んでいないという事実だけが残ります。原因が素材の未提供にあっても、外から見れば作業が遅れている状態と区別がつきません。
ここでも、相手に悪意があるわけではないことが多いようです。素材を集めるには社内の他部署に依頼が必要で、その手間が発注側にも見えていません。頼めばすぐ出てくると思っているうちに、日数が過ぎていきます。
「来なかったとき、どうするか」まで決めておく
対処の要点は、提供の期日を決めることだけではありません。期日を決めても、来ないときは来ない。
決めておくべきは、来なかった場合の扱いです。「この資料が◯日までに届かない場合、その分だけ納品日を後ろにずらす形でよろしいでしょうか」と、着手前に確認しておきます。
この一言があると、遅延が起きたときに責任の所在を議論せずに済みます。事前に合意した手順に沿って、調整するだけになります。揉めごとの多くは、事実そのものではなく、想定していなかったことから生まれます。
素材の依頼は、粒度を下げて頼む
素材が出てこない状況は、頼み方を変えるだけで改善することがあります。
「参考資料をいただけますか」という頼み方は、相手にとって作業量が読めません。何をどこまで集めればいいのか分からないため、着手が後回しになります。結果として、忘れられたまま日が過ぎます。
そこで、必要なものを具体的に分解して伝えます。「過去に配布された資料のうち、直近1年分のPDFを3点ほど」「掲載予定の写真は、横向きのものを5枚」といった形です。粒度が細かいほど、相手は探す手間を見積もれるようになります。
もう一つ有効なのが、完全でなくても構わないと添えることです。整った資料を用意しなければと考えて止まっているケースは珍しくありません。「途中の状態のもので構いません」と伝えると、動き出すことがあります。
残りの項目は、要点だけ押さえる
損害の大きい2つ以外にも、確認しておきたい項目があります。ここは深追いせず、押さえどころだけ挙げます。
成果物の定義は、どこまでが納品物かを言葉にしておきます。文章であれば見出し構成まで含むのか、画像は誰が用意するのか。この境界が曖昧だと、後から「これも含まれますよね」という会話が発生します。
修正の回数と範囲は、回数を決めるだけでは足りません。何をもって修正とするかを揃えておく必要があります。表現の調整と、方針変更に伴う作り直しは、同じ「修正」という言葉で呼ばれてしまいます。
支払いの時期と条件は、締め日と支払日を確認します。月末締めの翌月末払いであれば、着手から入金まで2か月近く空くこともあります。単価そのものの考え方は、相場を扱う回で改めて整理します。
連絡の手段と頻度も、最初に決めておくと後が楽になります。どのツールでやりとりするのか、返信までにどれくらいかかるとお互いに見込んでおくのか。複業では日中に即答できないことが多く、ここをそろえておかないと、返信の遅さが不誠実さと受け取られかねません。面談で伝えた稼働条件を、具体的な運用に落とし込んでおく段階だと考えてください。
確認しすぎて不安にさせないための順序
ここまで挙げた項目を、打ち合わせの冒頭から順に確認していくと、相手は身構えます。まだ関係ができていない段階で条件面の質問が続くと、警戒されているように受け取られるためです。
順序としては、まず相手の状況や困りごとを聞く時間を取ります。何に手が回っていないのか、この依頼はどこから生まれたのか。ここを理解しようとする姿勢が伝わってから、進め方の確認に入ると、同じ質問でも受け取られ方が変わります。提案文の回で扱った「読んだ証拠」を、ここでは質問の形で出すことになります。事業や募集の背景を踏まえた問いには、相手も具体的に答えます。逆に段取りの確認から入ると、必要最小限の返事しか返ってきません。
条件の確認は、相手のためでもあります。「認識をそろえておきたいので」と一言添えると、詰問ではなく協業の準備として伝わります。実際、後で揉めて困るのは双方です。
ヒアリングシートを用意するか、その場で聞くか
確認項目が固まってくると、シートにまとめて相手に渡したくなります。実際、ヒアリングシートのテンプレートは多く出回っています。
シートを使う利点は、聞き漏らしがなくなることです。項目が並んでいるため、緊張していても抜けません。一方で、相手に渡す形にすると、記入を求める負担が発生します。相手によっては、事務的な印象を持つこともあります。
現実的なのは、折衷案です。項目は自分の手元に用意しておき、会話の中で聞いていきます。シートは相手に見せるためではなく、自分が抜けを防ぐために持っておく。この形であれば、負担をかけずに網羅性を保てます。
出回っているテンプレートをそのまま使う場合も、項目を減らす前提で見ておくと扱いやすくなります。網羅的に作られているものが多く、案件の規模に対して過剰なことがあるためです。数万円規模の依頼に対して数十項目を確認しようとすると、それだけで相手の時間を使ってしまいます。
聞き方を変えると、答えが変わる
同じことを確認するのでも、聞き方によって返ってくる情報の量が違います。
確認の形ではなく、提案の形で聞く。これは前述の「この内容で進めて大丈夫ですか」と同じ考え方です。相手に判断を委ねる形にすると、答える側の負担が減り、率直な反応が返ってきます。
相手が答えを持っていない質問もあります。特に多いのが、この依頼が成功した状態を尋ねたときです。困りごとが先にあって発注に至っているため、成功の定義までは言語化されていないことがあります。そのときは、答えを待つのではなく、こちらから仮の案を出します。「たとえば、問い合わせの手間が減る状態を目指す形でしょうか」と示すと、相手も「それより、こちらを優先したい」と応じやすくなります。
そして打ち合わせの終わりに、理解した内容をその場で言葉にして返します。「今日うかがった内容だと、優先されるのは◯◯で、△△は次の段階という理解で合っていますか」。この一往復があるだけで、認識のずれはかなり減ります。
打ち合わせが終わったらすぐにやること
議事メモを、その日のうちに送ります。翌日以降になると、記憶が薄れるうえ、相手の中でも話が動いてしまいます。
内容は長くする必要がありません。決まったこと、保留になっていること、相手にお願いしたいこと。この3点が書かれていれば十分です。特に保留事項を明記しておくと、後から「あれはどうなりましたか」と切り出しやすくなります。
このメモは、言った言わないを防ぐ役割も果たします。ただし、証拠として構えて書く必要はありません。認識を揃えるための確認として送れば、相手も返信しやすくなります。もし内容に違いがあれば、その返信で修正されます。ずれを見つけるなら、早いほど傷が浅く済みます。
まとめ:聞いていなかったことが、後から効いてくる
手戻りが起きたとき、自分の力量の問題だと感じる方は少なくありません。しかし振り返ると、着手前に確認しておけば避けられたものが多く含まれています。
確認すべき項目は数多くありますが、損害の大きさには偏りがあります。決裁者と素材提供の2つは、ずれたときに部分修正では吸収できません。ここだけは、少し踏み込んででも確かめておく価値があります。
この記事の内容を、3つに整理します。
打ち合わせの前にやることがあるとすれば、この2項目を確認する言葉を、自分の口調で用意しておくことです。その場で考えようとすると、たいてい聞きそびれます。聞きにくいと感じる質問ほど、事前に言い回しを決めておくと口に出せます。
そして、確認を重ねることは相手を疑う行為ではありません。むしろ、この人となら安心して進められると受け取られる場面の方が多いようです。曖昧なまま引き受けて後で問題になるより、着手前に一往復かける方が、双方にとって負担が小さくて済みます。
ただし、ここで扱ったのは受注後に要件を詰める段階の話です。受注量そのものが自分の許容を超えていれば、確認を尽くしても納期は守れません。引き受ける量の設計については、別の回で改めて解説します。
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