副業で仕事を受けるようになると、必ず単価の問題に突き当たります。提示された金額が妥当なのか、もっと高く言ってよかったのか、判断する材料がありません。そこで相場を調べるのですが、検索して出てくる数値はサイトごとにばらばらで、どれを信じればいいのか分からないまま終わってしまいます。
実は、これには理由があります。職種ごとの単価をまとめた公的な統計は、存在していません。だから記事によって数値が違うのであり、調べ方が足りないわけではありません。
この記事では、公表されている数値として何があるのかを整理したうえで、相場が分からなくても自分の単価を決められる方法をお伝えします。読み終えたときに、自分が受けられる最低の金額を数字で持てている状態を目指します。
なぜ調べても相場が分からないのか
探しても見つからないものを、探し続けても時間が減るだけです。まず実際の状況から確認します。
なお当メディアでは、本業と並行して複数の仕事を持つ働き方を「複業」と表記しています(詳しくは副業と複業の違いとは?キャリアアップのためのこれからの選択肢をご覧ください)。
職種別の単価統計は公表されていない
フリーランスや複業に関する調査は、いくつも実施されています。国の調査もあれば、業界団体によるものもあります。しかしそれらを確認しても、職種ごとの時間単価をまとめた数値は出てきません。
たとえば一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会が公表している「フリーランス白書2025」には、回答者の職種の分類も、年収の分布も掲載されています。ところがこの2つを掛け合わせた集計、つまり職種ごとの収入という形の数値は載っていません。時間単価という項目自体がありません(フリーランス白書2025、調査期間2024年11月1日から12月14日、回答総数1,071名)。
検索して出てくる「ライターの相場は文字単価◯円」といった数値の多くは、こうした統計ではなく、記事を書いた人の経験や、限られた範囲の観測に基づいています。それが間違いだとは言えませんが、根拠の強さは公的な統計とは違います。数値がサイトごとにばらつくのは、そのためです。
同じ職種でも、単価が10倍以上違うことがある
統計が作られない理由も、考えてみれば分かります。同じ「ライティング」でも、内容によってまったく別の仕事だからです。
すでにある文章を整えるだけの作業と、取材をして構成から作る仕事では、必要な時間も専門性もまるで違います。前者は1時間で終わるかもしれませんが、後者は取材の準備から数えて何日もかかります。これを平均した数値を出しても、どちらの人にも当てはまりません。
デザインでも開発でも、事情は同じです。バナーを1枚作るのと、サービス全体の設計をするのとでは、同じ職種名で呼ばれていても比較の対象になりません。だから職種名だけを軸にした単価表は、そもそも作りようがないのです。
発注側の予算は、成果物の価値から決まっていない
もうひとつ、相場が一定にならない事情があります。発注する側の予算が、必ずしも作業量から算出されていないという点です。
企業が外部に仕事を出すとき、金額はその部署に配分された予算の中から決まります。同じ内容の依頼でも、予算に余裕のある部署と、限られた枠でやりくりしている部署とでは、提示できる金額が変わります。作業の難しさとは別の要因で金額が決まっているわけです。
このことは、安い金額を提示された場合の受け止め方に影響します。それはあなたの仕事の価値が低く見積もられたのではなく、単に予算の枠がそれだけだった可能性があります。逆に、高い金額が出たときも、自分の実力が評価されたと考えるより、その依頼にそれだけの予算が付いていたと理解するほうが正確です。
金額の高低を自分への評価として受け取ると、判断が感情的になります。条件が合うかどうかという事務的な問題として扱うほうが、結果として続けやすくなります。
相場を知っても、そのまま自分の単価にはできない
仮に信頼できる相場が分かったとしても、それをそのまま自分の金額にするのは危険です。理由は2つあります。
ひとつは、相場が平均であるという点です。平均には、その金額で受けている人と、それより高く受けている人の両方が含まれています。平均に合わせるということは、上半分の人たちより安く受けると宣言することでもあります。
もうひとつは、相場が自分の事情を知らないという点です。あなたが1本仕上げるのに何時間かかるのか、本業と両立できる稼働がどれくらいなのかは、相場の数値には含まれていません。相場どおりの金額でも、自分にとって割に合わないことは普通に起こります。
この連載では、報酬は経験年数ではなく相手が得る価値から逆算するという考え方をお伝えしてきました。相場はその判断を助ける参照点にはなりますが、決定基準にはなりません。
公表されている数値として、何があるのか
とはいえ、まったく手がかりがないわけではありません。出所がはっきりしている数値もあります。ただし、それぞれ読み方に注意が要ります。
発注プラットフォームが公表している「下限」
クラウドソーシングのクラウドワークスは、発注する側に向けて相場を公表しています。実際に掲載されている金額は次のとおりです(クラウドワークス発注相場、2026年8月18日確認)。
- 記事作成: 1円〜/文字
- リライト・校正: 3,000円〜/記事
- データ入力: 1,000円〜/時間
- 文字起こし: 5,000円〜
- バナー作成: 5,000円〜
- ロゴ作成: 30,000円〜
- イラスト作成: 30,000円〜
- YouTube動画編集: 8,000円〜/本
- WordPress制作: 100,000円〜
- ホームページ制作: 200,000円〜
- アプリ開発: 300,000円〜
ここで見落としてはいけないのが、すべて「〜」が付いている点です。これは下限であって、平均でも中央値でもありません。発注する人に「これくらいから頼めます」と示すための数値です。
したがって、この金額を自分の単価の目安にすると、最も安い水準に合わせることになります。参考にするなら、これを下回る依頼は明らかに安いという判断基準として使うのが適切です。
年収の分布は分かっている
もうひとつ、確認できる数値があります。フリーランス全体の年収分布です。
先ほどの「フリーランス白書2025」によれば、年収400万円以上の人は全体の47.7%です。内訳を見ると、200万円から400万円未満が26.5%で最も多く、400万円から600万円未満が21.0%と続きます。
ただしこれは年収であって、単価ではありません。同じ年収でも、少ない時間で稼いだ人と、長時間働いた人がいます。同じ調査では、月間の稼働時間が140時間以上の人が47.1%と報告されており、年収は稼働時間に比例する傾向があるとされています。
つまりこの数値から読み取れるのは、稼いでいる人が高単価とは限らないということです。長く働いた結果として年収が高い人も、同じ層に含まれています。単価を考えるうえでは、時間あたりで見る視点が欠かせません。
数値を読むときの注意点
ここまでの内容をまとめると、公表されている数値には次の制約があります。
発注プラットフォームの金額は下限であり、平均ではありません。年収の分布は職種別に分かれておらず、稼働時間の影響を含んでいます。そして職種別の時間単価は、そもそも公表されていません。
これらを踏まえると、外側にある数値だけで自分の単価を決めることはできないと分かります。公表されている数値は、自分の判断が大きく外れていないかを確かめる程度の使い方が現実的です。だから次に必要なのは、自分の側の数字を作る作業になります。
時間あたりで考え直す
単価を判断するには、まず金額を時間で割る必要があります。これをやらないまま金額の大小だけを見ていると、判断を誤ります。
成果物単価を時給に直す
複業の仕事は、時間ではなく成果物に対して金額が決まることがほとんどです。記事1本でいくら、バナー1枚でいくら、という形です。この形式は、かかった時間が金額に反映されないという特徴を持っています。
そこで、受ける前に必ず時給へ換算します。計算はごく単純です。
提示された金額を、完成までにかかる見込み時間で割ります。1本8,000円の仕事に10時間かかるなら、時給は800円です。同じ8,000円でも4時間で終わるなら2,000円になります。金額が同じでも、実際の価値はまるで違います。
慣れないうちは、かかる時間の見込みが外れます。見積もりの外れ方については納期管理を扱う回で改めて整理しますが、初めての種類の仕事では、想定の2倍を見ておくくらいでちょうど収まることが多いようです。時給を計算するときも、楽観的な想定ではなく、実際にかかりそうな時間で割ってください。
見えていない時間を計算に入れる
時給を計算するとき、多くの人は主な作業の時間だけを数えます。しかし実際には、報酬に含まれているのに見落としている時間があります。
打ち合わせの時間がそのひとつです。60分の打ち合わせが2回あれば、それだけで2時間が消えます。移動が伴えばさらに増えます。
修正の対応も同様です。納品して終わりではなく、確認を受けて直す工程が入ります。この時間を計算に入れていないと、後から時給が下がります。
そのほか、調べ物の時間、素材を受け取って整理する時間、請求書を作る時間も発生します。これらを合計すると、主作業と同じくらいの時間になることも珍しくありません。
したがって、時給を計算するときは主作業の時間に1.3倍から1.5倍ほどを掛けておくと、実態に近づきます。厳密な数値である必要はありません。見えていない時間があるという前提で計算することが重要です。
本業の時給と比べる意味と、限界
自分の単価を考えるとき、本業の時給と比べる方法があります。年収を年間の労働時間で割れば、おおよその時給が出ます。
この比較には意味があります。本業より大幅に低い時給で複業をしているなら、その時間を残業や休息に充てたほうが合理的ではないか、という検討ができるからです。
ただし、この比較には限界もあります。本業の時給には、社会保険料の会社負担分や有給休暇、雇用の安定といった要素が含まれています。複業の報酬にはそれらがありません。単純に金額だけを比べると、複業の側が実際より高く見えます。
逆に、複業でしか得られないものもあります。本業では扱えない領域の経験、直接の取引で得られる関係、実績として残る成果物。これらは金額に表れません。
したがって本業との比較は、判断のひとつの材料として使う程度が適切です。金額だけで決めるなら複業をしない方が合理的という結論になりやすく、それでは目的を見失います。
自分の最低単価を計算する
ここからが、この記事の中心になります。相場が分からなくても、自分が受けられる下限は計算できます。
生活の下限から逆算する
最初にやるのは、複業に使える時間を確定することです。削ってはいけないもの、つまり睡眠、家族と過ごす時間、体調を整える余白を先に確保します。そのうえで残った時間が、複業に使える上限です。
このとき、調子のいい週を基準にしないでください。本業が最も忙しい時期でも確保できる時間、つまり「守れる下限」を採用します。ここで多めの時間を置くと、必要な時給が実際より低く出てしまい、割に合わない依頼を受ける入口になります。
仮に、月に20時間が確保できる時間だとします。次に、複業で得たい金額を決めます。月に4万円としましょう。
この2つを割ると、必要な時給が出ます。4万円を20時間で割ると2,000円です。これが、あなたが受けるべき時給の目安になります。
最低ラインは、希望額ではなく損益で決める
いま計算した2,000円は、希望する水準です。これとは別に、これを下回るなら受けない、という最低ラインを決めておく必要があります。
最低ラインを考えるときの基準は、その時間を複業に使うことで失うものです。学び直しに充てられた時間、家族と過ごせたはずの時間が、そこには含まれています。それらを手放して働く以上、見合わない金額では続きません。
具体的な決め方としては、先ほどの希望時給の6割から7割あたりを下限に置く方法があります。2,000円が希望なら、1,200円から1,400円あたりです。この金額を下回る依頼は、原則として受けないと決めておきます。
数字にしておく理由は、判断を早くするためです。依頼が来るたびに考えていると、断る理由が見つからないまま引き受けてしまいます。あらかじめ線を引いておけば、下回った時点で検討を終えられます。
この下限は、誰かに見せるものではありません。自分の中で決めておくだけで機能します。相手に伝えるのは、実際に依頼を受けるかどうかを判断した後で構いません。
成果物単価に変換しておく
時給の下限が決まったら、実際の依頼形式に合わせて変換しておきます。複業の依頼は成果物単位で来ることが多いためです。
自分が1本仕上げるのに何時間かかるかを把握していれば、変換は簡単です。先ほど出した下限時給1,400円で、記事1本に5時間かかるなら、7,000円が下限になります。見えていない時間を考慮するなら、5時間に1.3倍を掛けて6.5時間、つまり9,100円と考えます。
この数値を持っていると、提示された金額を即座に判断できます。「1本6,000円で」と言われた時点で、自分の下限を下回っていると分かります。
計算例:会社員が月4万円を目指す場合
数字の流れが分かりにくいので、一例を通しで示します。仮の設定なので、ご自身の状況に置き換えて考えてください。
前提は、平日の夜に週2回それぞれ2時間、土曜の午前に3時間。目標は月4万円とします。
| 手順 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| 1. 週の稼働時間を出す | 2時間 × 2日 + 3時間 | 週7時間 |
| 2. 月に換算する | 7時間 × 4週 | 28時間 |
| 3. 動けない週を引く | 28時間 − 7時間(月1週分) | 21時間 |
| 4. 必要な時給を出す | 4万円 ÷ 21時間 | 1,900円(暫定) |
| 5. 見えていない時間を引く | 21時間 − 打ち合わせ・修正の分 | 16時間 |
| 6. 必要な時給を出し直す | 4万円 ÷ 16時間 | 2,500円 |
手順3が、最初の分かれ目です。多くの人は28時間で計算しますが、この前提で受注すると動けない週が来た時点で破綻します。21時間で組んでおけば、余裕がある月は前倒しで終わり、なければ予定どおりに収まります。
手順5も見落とされがちです。21時間すべてを成果物に使えるわけではありません。打ち合わせや修正に取られる分を引くと、実際に手を動かせるのは16時間ほどになります。ここを計算に入れないと、必要な時給を低く見積もることになります。
結論として、月4万円を21時間の枠で達成するには、成果物ベースで時給2,500円相当の仕事が必要です。この数字が出ていれば、依頼が来たときに即座に判断できます。
そして、この計算をすると分かることがもうひとつあります。月4万円は、時給1,000円の仕事では届かないということです。21時間すべてを使っても2万円台にしかなりません。目標額と使える時間が決まっている以上、単価を上げるか、目標額を下げるか、時間を増やすかのいずれかしか道はありません。感覚で悩んでいるとこの構造が見えず、ただ疲れていきます。
数字が合わないときに、どこを動かすか
計算した結果、必要な時給が現実的でないと分かることがあります。複業を始めたばかりの時期は、むしろこちらの方が普通です。
このとき動かせるものは3つあります。目標額、使える時間、そして単価です。
目標額を下げるのは、最も簡単で、かつ有効な選択です。複業を始めた最初の数ヶ月は、金額より進め方を身につける時期だと割り切ることができます。月4万円ではなく2万円に設定すれば、必要な時給は半分になります。
使える時間を増やす選択は、慎重に検討してください。生活の下限から先に引いて出した数字を後から増やすということは、削ってはいけないと決めたものに手をつけることを意味します。一時的には成立しても、続きません。
単価を上げるのは時間がかかりますが、最も効果が大きい方法です。同じ21時間で得られる金額が変わるためです。単価が上がる要因については次の項で触れます。
単価が上がるのは、作業の前後を引き受けたとき
単価を上げると言っても、同じ作業のまま金額だけを上げるのは簡単ではありません。相手にとって支払う理由がないためです。
実際に単価が変わるのは、引き受ける範囲が変わったときです。この連載でも繰り返し触れてきた考え方で、作業そのものではなく、作業の前後に価値を作るという発想になります。
たとえば文章を書く仕事であれば、渡された構成に沿って書くだけの場合と、何を書くべきかの設計から関わる場合とでは、相手にとっての価値が違います。前者は代わりが見つかりますが、後者は相手の事情を理解している人でないと務まりません。
デザインでも同じで、指定どおりに作る作業と、目的を聞いたうえで案を出す仕事とでは、金額の付き方が変わります。事務作業であっても、依頼された処理をこなすだけでなく、手順そのものを整理して渡せる人は扱いが変わります。
つまり単価を上げる近道は、交渉の技術ではなく、引き受ける範囲を広げることです。そしてその範囲は、相手の状況を理解しているほど広げやすくなります。この連載の最初に扱った「読んだ証拠」という考え方は、単価の話にもつながっています。
安く受けた仕事は、次も同じ条件で呼ばれる
下限を決めておく理由は、目先の損得だけではありません。一度受けた金額が、その相手との基準になってしまうためです。
最初に安く引き受けると、次の依頼も同じ水準で来ます。相手に悪意があるわけではなく、その金額で成立した実績があるからです。後から上げようとすると、値上げの交渉という形になり、手間も心理的な負担も大きくなります。
さらに、安い依頼を受けている間は、その時間を使って別の仕事を受けることができません。目の前の金額だけを見ると受けたほうが得に見えますが、時間という限りある資源を安く売っていることになります。
実績を作るために最初は安くても受ける、という考え方もあります。それ自体は間違いではありませんが、どこまでその方針を続けるかを先に決めておいてください。最初の3件までは経験を優先する、と区切っておけば、いつまでも安い水準にとどまることを避けられます。
提示された金額をどう判断するか
自分の下限が決まると、次は個々の依頼を判断する段階になります。ここで見るべき点がいくつかあります。
金額より先に、作業範囲を確定させる
提示された金額が高いか安いかは、作業範囲が決まらないと判断できません。同じ3万円でも、そこに含まれる作業が2時間分なのか15時間分なのかで、まったく違う話になります。
ところが実際の依頼では、範囲が曖昧なまま金額だけが先に提示されることがよくあります。この状態で返事をすると、後から作業が膨らんでも金額は変わりません。
したがって、金額について答える前に範囲を確認します。何をどこまでやるのか、素材は誰が用意するのか、修正は何回までか。ここが決まって初めて、時間の見積もりができます。確認すべき項目の詳細は、要件を詰める段階を扱った回にまとめました。
単価が低くても受ける価値がある場合
下限を決めておくと言いましたが、例外を認めてはいけないという意味ではありません。金額以外の要素で受ける判断は、十分にあり得ます。
たとえば、実績として公開できる仕事は価値があります。守秘義務のある案件ばかりだと、次の依頼を得るときに見せられるものがありません。公開の許可が出る仕事は、その分だけ金額以外の対価があると考えられます。
学べる要素がある場合も同様です。まだ経験のない領域に踏み込める依頼は、次の単価を上げるための投資になります。
紹介が期待できる相手も同じです。ただしこれは予測に依存するため、判断材料としては弱くなります。次につながるかどうかは相手の事情で決まり、こちらでは動かせません。
重要なのは、例外にする理由を自分で言えることです。実績になるから、学べるから、と説明できるなら問題ありません。断りにくかったからという理由で下限を下回るなら、それは基準が機能していない状態です。
逆に、高くても受けない方がいい依頼
金額が下限を上回っていても、避けたほうがよい依頼もあります。
- 範囲が曖昧なまま「まとめてお願いしたい」/後から作業が増え、終わってみれば時給が下限を割っていることがある
- 決裁者がはっきりしない/作業が進んでから方針が覆ると、金額の高さでは埋め合わせられない時間を失う
- 納期が極端に短い/本業がある以上、生活の下限を削るしかない。一度対応すると、その速度が基準になる
金額はあくまで判断材料のひとつです。時間あたりで見ること、そして条件の確かさを見ることが、同じくらい重要になります。
見積もりを出すときに書くこと
金額を伝える場面では、見積書を作ることがあります。形式は自由ですが、書いておくと後で揉めにくい項目があります。
見積書に入れておきたい項目
まず、作業の範囲です。何をどこまでやるのかを書きます。ここが曖昧だと、後から作業が増えても金額が変わりません。要件を詰める段階で確認すべき項目については、ヒアリングの回で整理しました。
次に、金額の内訳です。一式でいくら、と書くよりも、作業ごとに分けて書くほうが相手にとって分かりやすくなります。予算に合わない場合に、どの部分を削るかという相談もしやすくなります。
そして、修正の回数と範囲です。何回までが金額に含まれるのかを明記します。範囲を書いておかないと、方針が変わったことによる作り直しも「修正」として扱われます。
あわせて、有効期限と支払い条件も入れておきます。見積書は時間が経つと前提が変わるため、いつまで有効かを書いておくと安全です。
金額の根拠は、作業量に翻訳して説明する
金額を伝えると、その根拠を聞かれることがあります。ここで押さえておきたいのは、金額の決め方と、その説明の仕方は別だということです。
金額そのものは、相手が得るものから逆算して決めます。同じ3時間の作業でも、相手にとっての意味が違えば金額は変わります。ただし、その価値をそのまま根拠として語っても相手には確かめようがありません。経験年数やスキルの高さを持ち出す場合も同じで、確認できない情報は根拠になりません。
そこで、決めた金額を作業量に翻訳して伝えます。どの工程にどれくらいかかり、その合計としてこの金額になる、という組み立てにすると、相手は支払う金額に対して何が返ってくるかを判断できます。作業量は金額を決める基準ではなく、決めた金額を説明するための言葉です。
過去の仕事を引き合いに出すときも、同じ理屈です。4点セットで実績を示せば、同種の仕事にどれだけかかるかを相手が想像できます。そこまで届けば、提示した金額は根拠のある数字として受け取られます。
この説明の形には、副次的な効果もあります。作業量を分解して示すと、相手は削れる部分を見つけられます。予算が足りない場合に、範囲を狭めて成立させる道が残ります。金額だけを提示して断られるより、話が続きやすくなります。
消費税と源泉徴収で、手取りが変わる
金額を考えるとき、提示された数字がそのまま手元に残るわけではない点にも触れておきます。
複業として業務委託で仕事を受ける場合、報酬には消費税が加算されるのが原則です。見積もりを出すときは、税抜きと税込みのどちらで示しているかを明記しておくと誤解が生じません。ここが曖昧だと、請求の段階で金額が食い違います。
もうひとつ、原稿料やデザイン料など一定の報酬には、支払う側が所得税を源泉徴収する扱いがあります。この場合、振り込まれる金額は請求額より少なくなります。差し引かれた分は確定申告で精算される性質のものですが、入金額だけを見て単価が違うと感じることがあります。
制度の詳細は個々の状況によって変わるため、金額の設計をする段階では「提示額と入金額は一致しないことがある」という前提だけ持っておけば十分です。確定申告が必要になる条件や経費の扱いは、税務の専門的な領域になるため、国税庁の情報を確認するか、税理士に相談することをおすすめします。
単価交渉を切り出すタイミング
すでに継続している案件で、単価を上げたい場合があります。切り出すタイミングとしては、契約の更新時期か、作業範囲が増えたときが自然です。
特に、当初の想定より作業が増えている場合は、交渉の根拠がはっきりしています。範囲が変わったのだから金額も見直したい、という話は筋が通ります。
文面としては、次のような形になります。
「いつもありがとうございます。ご相談させていただきたいのですが、開始時と比べて対応範囲が広がっており、現在は当初うかがっていた作業に加えて◯◯も担当しております。次回の更新にあたり、金額を◯◯円に見直していただくことは可能でしょうか。ご検討いただければ幸いです。」
理由を作業範囲の変化に置き、感情的な表現を使わないのが要点です。「安いので上げてほしい」と伝えると、相手は判断の材料を持てません。何がどう変わったから、いくらにしたいのかを具体的に示します。
なお、交渉が通らないこともあります。そのときは、条件が合わないものとして引き受け方を見直す判断が必要になります。断り方については、別の回で詳しく整理します。
まとめ:相場ではなく、自分の数字で判断する
副業の単価を調べても答えが出ないのは、探し方が悪いからではありません。職種別の単価をまとめた統計が、そもそも公表されていないからです。同じ職種名でも仕事の中身が大きく違うため、平均を出しても実務では使えません。
だからこそ、必要なのは外側の相場を探すことではなく、自分の側の数字を持つことです。使える時間と得たい金額から必要な時給を出し、その6割から7割を下限として決めておく。これだけで、依頼が来たときの判断が数秒で済むようになります。
この記事の内容を、3つに整理します。
今日できることがあるとすれば、直近で受けた仕事の報酬を、実際にかかった時間で割ってみることです。打ち合わせと修正の時間も入れて計算してください。そこで出た数字が、いまのあなたの実際の時給です。
思っていたより低ければ、それは単価が安いのか、時間がかかりすぎているのかのどちらかです。前者なら金額を見直す必要がありますし、後者なら進め方を変える余地があります。どちらであっても、数字にしないと判断できません。
単価の話は、相手との駆け引きだと思われがちです。しかし実際に効いてくるのは、交渉の技術より前の段階にあります。自分の下限を数字で持っているかどうか。そこが決まっていれば、提示された金額に対して迷う時間がなくなり、条件が合わない依頼を早い段階で見送れます。金額を上げる交渉に踏み出すのは、その次で構いません。
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