キャリアアップや転職を考えた際、多くの社会人が資格取得を選択肢の一つとして検討します。
しかし、インターネット上では「資格は意味がない」という意見も散見され、資格の勉強を始めるべきか迷う人も少なくありません。
資格取得が本当に自分のキャリアにとってプラスになるのか、その価値を正しく見極めることが重要です。
この記事では、資格取得を後悔しないために、その価値を判断する基準や自分に合った資格の選び方を解説します。
「資格を取っても意味がない」と言われてしまう4つの理由
「資格は持っていても意味がない」と主張する人がいるのはなぜでしょうか。
時間や費用をかけて取得したにもかかわらず、期待した効果が得られなかったという経験から、そのように言う人もいるかもしれません。
資格取得が無駄だったと感じてしまう背景には、いくつかの共通した理由が存在します。
ここでは、資格取得が評価されにくい具体的なケースを4つの理由に分けて掘り下げていきます。
これらの理由を理解することは、資格選びの失敗を避ける第一歩となります。
理由1:資格よりも実務経験が重視されることが多いから
多くの企業、特に専門性が高い職種では、資格の有無よりも実務で成果を出せる能力を重視する傾向があります。
例えば、IT業界でエンジニアとして働く場合、資格を持っていること以上に、実際にどのようなプロジェクトに携わり、どんな技術を扱えるかという経験が評価の対象となります。
資格はあくまで知識レベルの証明であり、それを使って課題を解決した経験がなければ、採用の決め手にはなりにくいのが実情です。
企業が求めるのは、即戦力として貢献できる人材であり、その判断基準として実務経験が優先されるため、資格だけでは不十分だと見なされることがあります。
理由2:資格がなくてもできる仕事が大半だから
世の中の多くの仕事は、特定の資格がなくても就くことが可能です。
資格には、その資格を持つ人だけが特定の業務を行える「業務独占資格」と、資格がなくても業務はできるが、有資格者だけがその名称を名乗れる「名称独占資格」があります。
例えば、心理カウンセラーや整理収納アドバイザーなどは後者に分類され、資格がなくてもカウンセラーとして活動したり、整理収納のサービスを提供したりすること自体は問題ありません。
このように、資格が業務の必須条件ではない場合、資格の価値は相対的に低く見られがちで、個人のスキルや実績の方が重視される傾向にあります。
理由3:取得しても必ずしも収入アップに繋がるとは限らないから
資格を取得すれば必ず給料が上がると期待する人もいますが、現実はそう単純ではありません。
企業によっては資格手当制度を設けている場合もありますが、すべての資格が対象となるわけではなく、金額も限定的であることが多いです。
例えば、金融や保険業界で人気のファイナンシャルプランナー(FP)の資格は、取得しただけですぐに収入が増えるケースは稀です。
この資格を活かして、独立開業したり、個人のコンサルティング業務に繋げたりするなど、具体的な行動を起こさなければ、大きな収入アップは見込みにくいのが実情です。
資格取得が直接的な経済的利益に結びつかない場合、「意味がなかった」と感じやすくなります。
理由4:時代の変化によって資格の価値が低下することがあるから
技術革新や社会情勢の変化は、資格の価値にも影響を及ぼします。
かつては高く評価されていた資格が、時代の流れとともに陳腐化し、需要が低下するケースは少なくありません。
例えば、MOS(マイクロソフトオフィススペシャリスト)は、一昔前はPCスキルの証明として重宝されました。
しかし現在では、多くの社会人にとってエクセルやワードの基本操作はできて当たり前のスキルと認識されており、資格の希少性が薄れています。
常に新しい技術や知識が求められる現代において、取得を検討している資格が将来も価値を保ち続けられるか、という視点を持つことが必要です。
注意!取得後に後悔しやすい「意味のない資格」の共通点
時間と労力をかけて資格を取得したにもかかわらず、「役に立たなかった」と後悔する事態は避けたいものです。
意味のない資格となりやすいものには、いくつかの共通点が存在します。
特に、誰でも簡単に取得できる民間資格の中には、実務での評価に繋がりにくいものが少なくありません。
ここでは、取得後に後悔しやすい資格に共通する3つの特徴を解説します。
これらのポイントを事前に把握しておくことで、より慎重な資格選びが可能になります。
共通点1:自分の仕事やキャリアプランと関連性が薄い
自分のキャリアプランや現在の業務内容と直接的な関連がない資格は、取得しても活用できる場面が限られます。
例えば、製造業の現場で働いている人が、特にキャリアチェンジの意図もなくキャリアコンサルタントの資格を取得しても、社内での評価や昇進に直接結びつく可能性は低いでしょう。
目的が曖昧なまま「何かスキルアップのために」という動機だけで資格を選ぶと、履歴書に記載はできても、面接で取得理由を問われた際に説得力のある説明ができません。
資格は、自身のキャリアという道筋において、どういう役割を果たすのかを明確にしてから選ぶべきです。
共通点2:誰でも簡単に取得できてしまうため希少性がない
合格率が極めて高い、あるいは短時間の講習を受けるだけで取得できる資格は、専門性の証明としては弱いと判断されがちです。
採用担当者の視点から見ると、他の応募者との差別化要因になりにくく、スキルを客観的に示す材料としては効果が薄いと言えます。
特に、難易度別に級が設定されている資格の場合、最も易しい3級などは基礎的な知識レベルと見なされ、実務能力のアピールには繋がりにくい傾向があります。
多くの人が保有している資格は希少性が低いため、就職や転職市場での価値も相対的に低くなることを認識しておく必要があります。
共通点3:資格がなくても業務に携われる名称独占資格
資格には、前述の通り「業務独占資格」と「名称独占資格」があります。
後者の名称独占資格は、資格がなくてもその業務自体は行えるため、資格の価値が実務能力に直結しにくい側面があります。
例えば、IT系の資格の多くは名称独占資格であり、資格がなくてもプログラミングやシステム開発を行うことは可能です。
そのため、現場では資格の有無よりも、実際の開発経験や成果物が重視されます。
もちろん、知識の体系的な証明として未経験からの就職活動ではアピールポイントになり得ますが、資格があるからといって仕事ができるとは限らない、という点は理解しておくべきです。
本当に意味なくない!資格取得で得られる4つのメリット
これまで資格取得のネガティブな側面に光を当ててきましたが、もちろん資格取得には多くのメリットが存在します。
目的を明確にし、自身のキャリアプランに合致した資格を戦略的に取得すれば、それは強力な武器となり得ます。
特に、法律で専門性が担保されている国家資格などは、社会的な信頼性も高く、キャリア形成において大きな利点をもたらします。
ここでは、資格取得によって得られる具体的なメリットを4つの観点から解説していきます。
メリット1:専門知識やスキルがあることを客観的に証明できる
資格は、自分自身が持つ知識やスキルを第三者に対して客観的に証明するための最も分かりやすい手段の一つです。
特に、未経験の業界や職種に挑戦する場合、実務経験がない分、資格が学習意欲やその分野に関する基礎知識を有していることの証左となります。
例えば、履歴書に「英語が得意です」と書くだけでなく、TOEICの具体的なスコアを記載することで、語学力を客観的な指標で示すことが可能です。
このように、目に見えない能力を可視化し、説得力を持たせることができる点は、資格取得の大きなメリットと言えます。
メリット2:資格がなければ就けない職業に挑戦できる
世の中には、特定の資格を保有していなければ、その業務に従事することが法律で禁じられている「業務独占資格」が存在します。医師や弁護士がその代表例です。
一方で、保育士、介護福祉士、管理栄養士といった職業は、それぞれの国家資格がなければ「その名称を名乗ることはできません」が、資格がなくても業務自体に従事することは可能です。これらの資格は「名称独占資格」に分類されます。名称独占資格は、資格取得者のみが特定の名称を名乗ることができ、資格を持たない人がその名称や紛らわしい名称を使用することは禁止されています。
これらの資格は、特定の専門職への扉を開くための鍵となります。将来就きたい職業が業務独占資格を必要とする場合、資格取得は単なるスキルアップではなく、キャリアを実現するための必須条件となり、その価値は計り知れません。栄養士のように特定の養成課程の修了が求められる場合もあります。
メリット3:就職や転職活動で有利に働くことがある
実務経験が重視される傾向にあるとはいえ、資格の保有が就職や転職の選考過程で有利に働く場面は少なくありません。
特に、応募者の能力や経験が同程度である場合、志望する職種に関連する資格を持っていることが、最終的な採否を分ける一因となる可能性があります。
また、企業が求めるスキルセットと合致する資格は、その仕事に対する熱意や適性を示す強力なアピール材料になります。
企業によっては資格手当の支給や昇進の要件としているケースもあり、キャリア形成の様々な段階でプラスに作用することが期待できます。
メリット4:体系的に学ぶことで自信がつき仕事の幅が広がる
資格取得を目指す過程で、特定の分野の知識を体系的に学習することができます。
日々の業務で断片的に得ていた知識が、学習を通じて一つの線として繋がり、より深い理解に至ることがあります。
例えば、社会福祉士の資格取得に向けて勉強することで、関連する法律や制度、支援技術などを網羅的に学ぶことができ、それが現場での判断力や提案力の向上に繋がります。
体系的な知識に裏打ちされた専門性は、業務に対する自信を生み、これまで挑戦できなかった新しい役割や責任ある仕事を任されるきっかけにもなり、仕事の幅を広げることに貢献します。
後悔しないために!自分に本当に役立つ資格の見極め方
資格取得のメリットとデメリットを理解した上で、次に重要となるのが「自分にとって本当に役立つ資格」をどう見極めるかです。
世間的に評価が高いとされる弁護士、公認会計士、不動産鑑定士の3大国家資格や、いわゆる8士業資格だけが価値のある資格ではありません。
知名度や難易度だけで選ぶのではなく、自分自身のキャリアプランと照らし合わせ、戦略的に選択することが後悔しないための鍵です。
ここでは、そのための具体的な4つのステップを紹介します。
ステップ1:なぜ資格を取りたいのか目的をはっきりさせる
資格選びの最初のステップは、資格取得の目的を明確にすることです。
「現在の仕事で専門性を高めたい」「未経験の業界に転職したい」「将来的に独立開業したい」など、目的によって最適な資格は全く異なります。
例えば、不動産業界でのキャリアアップを目指すのであれば、業務に直結する宅建(宅地建物取引士)の取得が有効な選択肢となります。
目的が具体的であればあるほど、数ある資格の中から自分に必要なものを見つけやすくなり、学習へのモチベーションも維持しやすくなります。
まずは、資格取得によって何を実現したいのかを自問自答することから始めましょう。
ステップ2:目指す業界や職種での需要と将来性を調べる
取得したい資格の方向性が定まったら、次はその資格が目指す業界や職種で実際にどの程度評価されるのか、その需要と将来性を調査します。
最も手軽で有効な方法は、求人情報サイトで希望する職種の募集要項を確認することです。
「応募資格」や「歓迎スキル」の欄に記載されている資格は、企業が求めている能力の指標となります。
また、AI技術の進展など、社会の変化によって求められるスキルも変わるため、その資格の将来性も考慮に入れる必要があります。
例えば、社会保険労務士(社労士)のような専門的なコンサルティング能力が求められる資格は、今後も需要が安定していると予測されます。
ステップ3:取得にかかる費用や学習時間が見合うか検討する
資格を取得するためには、受験料や教材費、スクールの受講料といった金銭的なコストと、学習に費やす時間的なコストが発生します。
特に難易度の高い資格ほど、これらのコストは増大する傾向にあります。
資格を取得した結果として得られるであろうメリット(昇給、転職による年収アップ、キャリアの安定性など)と、それに投じるコストが見合っているかを冷静に判断することが不可欠です。
現在の自分の経済状況や生活スタイルの中で、必要な学習時間を確保できるか、費用を捻出できるかといった現実的な側面から、実現可能性を検討する必要があります。
ステップ4:自分の興味や得意なことと一致しているか確認する
どんなに需要があり将来性が有望な資格であっても、自分自身がその分野に全く興味を持てなければ、学習を続けることは困難です。
資格の勉強は、数ヶ月から時には数年に及ぶ長丁場になることもあります。
その道のりを乗り越えるためには、学習内容に対する知的好奇心や「面白い」と感じる気持ちが大きな原動力となります。
また、自分の得意なことや適性を考慮することも重要ですます。
例えば、論理的思考が得意であれば法律系の資格、細かなデータ分析が好きならCIA(公認内部監査人)のような会計・監査系の資格など、自分の強みを活かせる分野を選ぶことで、学習効率も高まり、取得後もその知識を活かしやすくなります。
【目的別】あなたのキャリアを後押しするおすすめ資格
ここまで紹介した資格の見極め方を踏まえ、ここでは具体的なキャリアの目的別におすすめの資格をいくつか紹介します。
医薬品の販売に不可欠な登録販売者のように、特定の業界で強いニーズがある資格も存在します。
ただし、ここで挙げるのはあくまで一例です。
最終的には、自分自身の状況やキャリアプランと照らし合わせ、最適な資格を選択することが最も重要であるという点を念頭に置いて参考にしてください。
就職・転職で選択肢を広げたい人におすすめの資格
未経験の分野への挑戦や、キャリアの選択肢を広げることを目指す場合、汎用性が高く多くの業界で求められる資格が有効です。
例えば、日商簿記検定2級は、経理や財務の職種だけでなく、営業や企画職においてもコスト意識をアピールできるため、幅広い企業で評価されます。
不動産業界への転職を考えているなら、宅地建物取引士は必須ともいえる資格です。
また、医療事務関連の資格は、全国の病院やクリニックで需要が安定しており、専門職として長く働き続けやすいというメリットがあります。
これらの資格は、新たなキャリアへの第一歩を踏み出すための強力なパスポートとなり得ます。
現在の仕事でキャリアアップや昇給を目指す人向けの資格
現在の職場で専門性を深め、昇進や昇給といった形で評価を高めたい場合は、現職の業務に直結する上位資格や関連資格の取得が効果的です。
例えば、ITエンジニアであれば、基本情報技術者試験から応用情報技術者試験、さらには各分野のスペシャリスト試験へとステップアップしていくキャリアパスが考えられます。
介護業界で働く人であれば、実務経験を積みながら介護事務の資格を取得することで、現場の知識と事務能力を兼ね備えた人材として評価され、業務の幅を広げることが可能です。
自社の資格取得支援制度や評価制度を確認し、会社が推奨している資格を目指すのも一つの戦略です。
将来の独立や副業に繋げたい人向けの資格
会社に依存しない働き方として、独立開業や副業を目指す人にとっては、その専門性を活かして直接収益に結びつけられる資格が適しています。
中小企業診断士や社会保険労務士、行政書士といった士業資格は、コンサルティング業務や書類作成代行などで独立開業する際の代表格です。
また、ウェブデザインや動画編集のスキルを証明する資格は、フリーランスとして案件を獲得する際に役立ちます。
介護業界であれば、介護福祉士として経験を積んだ後、ケアマネジャー(介護支援専門員)の資格を取得し、将来的には独立型の居宅介護支援事業所を立ち上げるというキャリアプランも描けます。
まとめ
「資格は意味ない」という言説は、資格そのものの価値を否定するものではなく、多くの場合、取得の目的や選び方、活用の仕方に課題があることを示唆しています。
資格はキャリアを豊かにするための「手段」であり、取得自体が「目的」ではありません。
世間的に評価の高い3大国家資格のような難関資格でなくても、自身の明確な目的とキャリアプランに合致していれば、その資格は自分にとって「意味のある」ものになります。
最終的に資格という道具をどう使いこなし、価値あるものにするかは、取得後の行動次第です。
本記事で紹介した見極め方を参考に、後悔のない資格選びを実践してください。